【相談内容】
財産とよべるものは妻と住んでいる自宅しかありません。
子供二人にも遺産を分けるとなると、この家を売るしかなくなってしまいます。
長年連れ添った妻が私が亡くなった後もこの家に住み続けられるようにしてあげたいのです。
【解決方法】
⇒妻が自宅をまるごと相続する旨と、可能ならば他の相続人への代償措置も遺言する。
「妻に全財産相続させる」としてもよい。
心配なのは子供たちの遺留分
多くの家庭では、主要な財産は現在住んでいる自宅と、もしもの時のための預貯金だけという例は多いです。
子供たちはすでに独立して生活しており、家族のために尽くしてきた老妻の今後の生活だけが心配で、共に築いてきた財産のすべてを遺してあげたいと考える人は多いと思います。
特に、住み慣れてきた自宅を歳をとってから出ていくことになることだけは避けてあげたいと思うのは当然の考えです。
日本では、生前はもちろん、死後でも、自分の財産を自由に処分できるというのが大原則です。
なので、赤の他人に自分の全財産を譲るのも自由ですし、勝手です。
ですが、同時に法律はバランスを重視しますので、本来遺産を受け取るはずだった家族である相続人を保護する必要もあります。
自分の財産を自由に処分できるという大原則の例外として設けられたのが「遺留分」の制度です。
遺留分が認められている相続人は、被相続人(相続の元となる亡くなった人)の配偶者(夫婦の相手方、妻または夫)、子(直系卑属)、親(直系尊属)です。
兄弟姉妹には遺留分はありません。
「妻に全財産を相続させる」という遺言をしたとすると、その遺言自体は有効ですが、他の相続人が子か親の場合なら、その遺言は遺留分を侵害することになります。
相続人が妻と子の場合、子の遺留分は、本来の法定相続分の2分の1になります。
妻と子供が二人いたとするならば、その子供一人の遺留分は4分の1(法定相続分)×2分の1=8分の1になります。
なので「妻に全財産を相続させる」という遺言だと、子供二人合わせて4分の1の遺留分を侵害してることになります。
遺留分を侵害された相続人は、侵害されていることを知った時から1年以内に遺留分減殺請求権(取戻しの請求権)を行使することができます。
では、どのような内容の遺言にすればいいのか?
このような遺言を書くときは、ほとんどの場合は被相続人の親は亡くなっていると思いますので、相続人は妻と子と想定します。
「妻に全財産を相続させる」という内容の遺言に対して、子としてはどのような対応をするでしょうか。
世の中のほとんどの子は、遺言内容に従うでしょう。
赤の他人ならいざ知らず、父親の全財産が母親に入って不満に思う子はほぼいないと思います。
「遺留分に相当する分け前をよこせ」と、自分の母親に対しては言いづらいことです。
それにいずれ母親が亡くなれば、母親から相続できるということもあります。
ただこのような場合でも、遺言者である被相続人は、子たちに遺言の内容の意図と母が亡くなれば遺産は子に相続されることを説明し、母に遺留分を主張しない約束を取り付けておくと良いでしょう。
そして、念を押して遺言の中にも改めて母に遺留分を主張しないでほしいと書いておくと効果的です。
ここまでしておいて遺留分を主張する子はいないと思います。
後妻と前妻の子がいる場合は注意
しかし、全財産を受けたのが後妻であった場合は話が別です。
前妻の子たちは、後妻と養子縁組をしない限り、後妻から相続を受けられません。
その後妻に子がいた場合、前妻の子たちからすると、そのままでは父の財産をいずれ全て後妻の子に持っていかれてしまいます。
自分たちは一銭も受け取れず。
このような後妻への全額相続では、前妻の子から遺留分減殺請求権を行使されることも十分考えられます。
被相続人の生前に子たちへの説得が難しそうならば、子たちへの遺留分を侵害しない程度に財産を分け与える内容の遺言にしておくべきでしょう。