自筆証書遺言とは

自筆証書遺言は、遺言書の作成方法の1つで、自分一人で作成できる遺言書です。
15歳以上なら紙とペンと印鑑さえあれば今すぐ作成できるのがこの自筆証書遺言です。

自筆証書遺言作成のルール

一人でも簡潔な方法で自筆証書遺言ですが、作成するうえで絶対に守らなければならないルールがあります。(民法第968条)
それは、遺言者が遺言書の全文日付および氏名自書(手書き)し、その遺言書に
印を押さなければなりません
以下にその注意点について記載します。

①遺言書全文を自書(手書き)する

自筆証書遺言は全部自書しなければなりません。
なので、パソコンやワープロなどで作成した遺言書は無効となります。
他にも、録音テープやビデオなどの動画、口頭で言ったことについては無効となります。
このような自書以外での遺言書の残し方は遺言者の意思を知ってもらうという意味では効果があるのかもしれませんが、法律的な効果が発生しません。
例えば遺言書の中で法定相続分と異なる内容の遺産分割だったり、相続人以外に遺産を分け与える内容だとしても、全文自書でなかったら無効となってしまいます。
ただし、祭祀財産(墓や祭壇、仏具など)の承継については、特に法定された方式は無く口頭でも可能ですが、これも遺言書に一緒に自書して記載するのが間違いないと思います。
ちなみに筆記用具は、消しゴムなどで消されることがないように黒色のボールペンなどでしてください。

②日付について

日付は遺言書を作成した日を自書で記載します。
その日が特定できる書き方をしなければなりません。
つまり平成〇年〇月〇日というように記載します。
西暦でもかまいません。
「吉日」とかその日が具体的に特定できない書き方をすれば無効になりますので注意が必要です。

③氏名について

氏名も自書しなければなりません。
住所氏名が彫られた印などで代用することは認められません。
氏名は誰か特定できればいいので、たくさんの人に認知されてるなら通称やペンネームでもよいとされています。
ですが、できる限り戸籍上のフルネームで記載するようにしてください。

④印について

自筆証書遺言の印は認印(三文判)、拇印(指印)でもよいのですが、できる限り実印で押印してください。
これも自筆証書遺言の真実性を上げるためです。
遺言書を入れる封筒の中に、一緒に印鑑証明書も入れると効果的です。

⑤住所・生年月日について

住所・生年月日は法律上の要件とされていないので記載しなくてもよいです。
ですが真実性を上げるために記載することをお勧めします。

 

遺言書

遺言者 甲野太郎は次のとおり遺言する。

第1条 遺言者の全財産を妻の花子に相続させる。

平成〇年〇月〇日

京都府京都市〇〇〇〇
甲野 太郎

昭和〇年〇月〇日生

※全部自書でする必要があります。

その他の注意点

もし遺言書が2枚以上になったら?

遺言書が2枚以上になった場合は、ホッチキスで留めて、つなぎ目に遺言書に押印したのと同じ印で契印してください。

書き間違えたら?

その場合は一から新しい紙で書き直してください。
加除・変更の方法は法律上厳格に定められており、この方式に反すると無効になります。
書き間違えたら破棄して、新たに書き直してください。

封筒に入れる必要あるの?

遺言書を封筒などに封書することは法律上の要件とされていません。
なので封書しなくても法律上はよいのですが、管理・保存面で考えると、大事な遺言書を裸で放置するのはよくありません。
なので遺言書は封筒などに必ず封書するようにしてください。

封筒の表面には「遺言書 在中」と書いてください。
家族などに間違えて捨てられてしまわないためです。

封筒の裏面には、遺言書に記載したのと同じ日付と氏名を自書し、遺言書に押印したのと同じ印で押印してください。
封筒への自書や押印は法律上の要件ではないですが、封筒にも日付、氏名の自書、押印することで遺言書の法律要件を補完する効果があります。
また、自筆証書遺言は遺言者の死亡後、家庭裁判所で検認してもらわなければなりません。
なので「家庭裁判所で検認をうけること」と書いておくのも、相続人などの発見者のためになります。

自筆証書遺言の長所・短所

自筆証書遺言の長所短所をお伝えしたいと思います。
自筆証書遺言と公正証書遺言は対極的な関係です。
自筆証書遺言の長所は公正証書遺言の短所で、自筆証書遺言の短所は公正証書遺言の長所であったりします。

自筆証書遺言の長所

お金がかからない

自筆証書遺言の長所の1つは「お金がかからない」です。
紙と筆記用具(ペン)と印鑑があれば今すぐにでも作成できます。
今おうちに紙とペンと印鑑が無い人はあまりいないでしょう。
公正証書遺言だと、遺言者の財産の額にもよりますが大体5万円から10万円は公証人への手数料でかかります。

作成が手軽

もう1つは「作成の手軽さ」です。
自分一人ですぐに作成することが可能です。
公正証書遺言の場合は、公証人との事前の打ち合わせ、証人2名の手配、そして作成当日も原則として公証役場で作成します。
公証役場の都合もありますので作成まで数週間くらいかかります。

自筆証書遺言の短所

遺言書の信憑性

自筆証書遺言の短所「遺言書の信憑性」です。
上記でも述べているように、自筆証書遺言は厳格な法律のルールがあります。
それに一つでも反するとその遺言書は無効となります。
遺言者がルールを守って遺言書を作成したとしても、本当に遺言者が作成した遺言書と判断されるのかは別問題です。
もしその遺言書が自分にとって都合の悪い利害関係人がいたら、「その遺言書はニセモノだ」と言って、裁判で争うかもしれません。
それは、自筆証書遺言は一人で作成ができる分、本当にその人が作成した遺言書かどうか疑われる余地があるのです。

その点で公正証書遺言は心配ないと言っていいです。
公正証書遺言は作成に公証人が関与します。
公証人は、元裁判会や元検事など法律実務の経験が豊かな方がなりますので、公正証書遺言が無効になることはまず考えられません。

遺言書の保管

自筆証書遺言は保管方法を考える必要があります。
自筆証書遺言の場合、誰かに破棄されてしまう可能性があります。
破棄されるのを恐れて遺言書を隠しても遺言者の死亡後に遺言書が見つけられなかったら、せっかく遺言書を書いた意味がありません。
遺言書を作成したら家族等に知らせておくことをお勧めします。
信用できる家族や遺言執行者を指定したらその方に保管してもらうのも一つの方法です。
それでも、万が一紛失してしまう可能性はゼロではありません。

公正証書遺言の場合は通常2・3部作成します。
そのうち原本は公証役場で保管し、正本・謄本(写し)は遺言者に交付されます。
なので公証役場側で遺言書の存在を証明してくれますし、正本・謄本が紛失した場合は再交付してくれます。
ちなみに、公正証書遺言も遺言者の死亡後、遺言者が遺言を作成していたことを家族に通知してくれません。
なので、公正証書遺言も作成したら家族に知らせておいたほうがよいです。

相続手続き

遺言者の死亡後、自筆証書遺言の場合、家庭裁判所に検認をしてもらわなければなりません。
検認手続きを終え「検認済み証明書」を発行してもらわないと、金融機関や法務局での相続手続きができません。
この検認手続きにはそれなりの手間がかかり、手続きを終えるのに2か月ほどかかります。

公正証書遺言の場合は、検認する必要はありませんので正本・謄本を使って相続手続きが可能です。

これはどちらかというと、遺言者というよりも遺産を承継する相続人等にとっての問題ですが、基本的には遺言書は相続人などの遺産を承継する方たちのために作成する場合が多いので、相続人になる家族などの手間を省かせてあげたいのなら、公正証書遺言を作成するほうがよいでしょう。

自筆証書遺言の信憑性をあげる工夫

上記のデメリットにもかきましたが、自筆証書遺言は常に本人が本当に作成したのかの信憑性に不安があります。
そのために、ちょっとした工夫をすることで自筆証書遺言の信憑性が増します。

実印で押印し、印鑑証明書も一緒に封筒に入れる

自筆証書遺言は、認印でも法律上かまいませんが、実印で押印することでより信憑性が増します。
そして、印鑑証明書も遺言書と一緒に封筒にいれておけば良いでしょう。

動画を撮っておく

上記では、動画で作成した自筆証書遺言は無効と書きました。
ですが、遺言書を作成してる様子を動画で収めておけば、本当に本人が作成した遺言書だという信憑性が増します。
その動画内で、遺言書の内容を述べたり、家族に対してこの内容の遺言書を残した理由や気持ちを述べるのも効果的です。

もし、より確実な遺言書にしたいと思うなら、公正証書遺言にすることをおすすめします。

自筆証書遺言を本当に1人で作成しても大丈夫?

もちろん1人で作成できるのがこの自筆証書遺言です。
ちゃんとルールに従って作成されれば、それは間違いなく自筆証書遺言です。

ですが本当に想いを叶えられる内容の遺言書を作れるのかは別問題です。

もしも、簡単な内容の遺言書を作成したいなら一人で作成しても十分でしょう。
例えば、「妻の〇〇に全財産を相続させる」などです。

ですが、ご自身では完璧に思われた遺言書が、返って争いを呼ぶ遺言書になってることが良くあります。
本当に自分が想う遺言書を作成したいとなると、法律の知識やテクニックが必要です。

特に初めて遺言書を作成するなど遺言書作成に不慣れな方は、我々のような遺言書作成のプロに文案作成の依頼をすることをおススメします。

我々プロは、今までたくさんの方の文案を作成した経験がありますので、不慣れで想いをうまく口にできない依頼者の気持ちを感じ取り、それを最適な形に作り替えることができます。

ぜひ、当事務所のように無料相談を実施してる行政書士も多いので、ぜひそういう所へまずは相談することが良いと思います。