遺言はあなたの思いを叶えるため

人は必ず死を迎えます。
自分が死んだ後も家族には仲良く幸せに暮らしてほしいと願ったり、お世話になった方に金銭を贈与して恩返しをしたいなど、様々な事を考えたりするものです。
しかし、願ったり思ったりしていたところで、それが実現されるわけではありません。
たとえ、家族やお世話になった方に自分の死後の財産について口約束したところで、法律的に実現される保証はありません。
こうした思いや願いを実現するために遺言書が必要なのです。

遺言で叶えられるのは「法律的効果」があるもの

ただ、遺言書に書けば何でも思いを叶えられるほど、遺言書は万能ではありません。
家族に「これからも家族力合わせて仲良くしてほしい」と書いても、さすがに遺言書でそこまで保証できるものではありません。
遺言書で実現できるのは、法律的に効力を発生させられるものだけです。
遺言で法律効果が発生するのは以下の12種類ですです。

遺言で法律効果が発生するもの

《相続に関するもの》

  1. 法定相続分とは違う割合にする(相続分の指定及び指定の委託、民法902条)
  2. 個々の遺産について相続させる人の指定などをする(遺産分割方法の指定及び指定の委託、民法908条)
  3. 特別受益者の持戻しの免除(民法903条3項)
  4. 一定期間(最長5年間)、遺産分割協議を禁止する(民法908条)
  5. 推定相続人の廃除または廃除の取消(民法893条、894条)
  6. 共同相続人間において担保責任の指定をする(民法914条)
  7. 遺言執行者の指定および指定の委託(民法1006条)
  8. 相続人以外の者へ贈与、寄付をする(民法902条1項)
  9. 民法の定める遺留分減殺方法とは違う減殺方法の指定(民法1034条ただし書)

《相続以外のこと》

  1. 正式な婚姻外で出来た子を父親が認知(民法781条2項)
  2. 未成年後見人の指定(民法839条)
  3. 信託の設定(信託法3条2項)

要するに、どういった場合に遺言書を活用するべきかというと

  • 遺産を自由に処分したい
  • 相続紛争を遺言で防止したい
  • 婚姻外で出来た子の認知など生前に出来なかったことを死後に実現したい
  • 子供(未成年)の将来の事を誰かに頼んでおきたい

など、こうしたことを自分の死後に実現するためには遺言書を必ず作成しなければなりません。
自分の死後、こうしておいて欲しいという思いがあり、その思いを家族に表明していたとしても、遺言書を書かなければ法律的には保障されたものにはなりません。
もちろん遺言書が無くても、家族の全員が故人の思いのとおりにしてくれる可能性はありますが、法定相続人の誰かに不利な内容であれば、思いを実現するのは大変難しくなるどころか、それが原因で家族仲がバラバラになることも珍しくありません。

ここだけの話ですが、いくら兄弟同士が仲の良くても、相続でお金が絡む話し合いになると簡単ではいかなくなります。
それは、直接相続人ではない人が話を難しくするケースがあるからです。
例えば、相続人の配偶者(妻)などです。
相続人同士がある程度、遺産分割に納得できていたとしても、相続人の妻同士が火花を散らして、それが相続人間の争いに発展するケースはよく聞く話です。
遺言書が一通あれば、こういった無駄な争いが起きません。

「これからも家族仲良くしてほしい」と遺言書にかいても法律的な効果は無いと書きましたが、家族が今後も仲良くしていくための内容に遺言書を作成することはできますし、そういう思いを叶えるために遺言書は必要です。

遺言があると相続はどう変わるの?

遺言を書くか書かないかは自由ですし、法律的な義務ではありません。
遺言が無い場合は法定相続によって相続することになります。(法定相続の詳細は「法定相続とは」をご覧ください)
法定相続は、民法で規定された被相続人(死亡した人)の財産について誰がどのような割合で相続するか(相続分)などの内容です。
例えば、被相続人の死亡時に妻(配偶者)と子がいれば、法定相続人は妻と子がなり、妻が2分の1、子が2分の一(子が複数いる時は1/2÷子の数)とされています。

遺言書があるときは遺言相続といい、法定相続に優先します。
法定相続どおりでも別にいいと思ってる方にとっては遺言書を作成する必要がないように思われます。
ですが、注意していただきたいのは、法定相続で決まってるのは相続分だけです。
個々の遺産を誰が取得するかまでは決まっていません。
この場合、相続人全員が参加する遺産分割協議で決めなければなりません。

大切な人たちが仲良くするために遺言書は必要

もし同居してる妻(配偶者)に自分の死亡後もこの家に安心して住まわしてやりたいし、もちろんそうなるだろうと思っていても遺言書が無ければ自宅が妻所有のものになる保証がありません。
それに遺産分割協議は相続人全員の同意があれば成立します。
逆に言えば、法定相続どおりではなく明らかに誰かに偏った遺産分割協議であったとしても、全員が印を押せば成立してしまいます。
なので相続人の中に口の上手い相続人と口の下手な相続人がいれば、相続人間で有利不利が生まれてしまう可能性があります。
それに遺産分割協議は、基本的にはお金の話し合いでもあるので、遺産分割協議が原因で家族仲が悪くなるのはよく聞く話です。

もし、自分の死後に遺産がどうなるかは興味なくても、家族などの大切な人たちが仲悪くなったり揉めたりするのが嫌ではない人はいません。
大切な人たちがこれからも仲良く暮らしていけるように、遺言を書いておくことが家族など大切な人を守る役目のある方の義務であり愛ではないでしょうか。