【相談内容】

私には大変お世話になった恩人がいます。
私には相続人である妻と子3人おりますが、お世話になった恩人にも遺産を分けたいと思っています。

【解決方法】

その恩人の方にお金や特定の物件などを譲る旨の遺言を作成しましょう。
 ただし、その際は相続人の遺留分に注意してください。

遺言書で遺贈をする

被相続人(相続させる側の人)は、自分の財産をどのように処分するのかは自由です。
なので、相続人以外の者に遺産を譲渡することも自由です。
例えば、お世話になった他人の方や、学校や法人に自分の死後、遺産を受け取らせたいならば、遺言にその旨を指示しておけばよいのです。

近親者でも、親や兄弟姉妹、甥や姪などは、第一順位の相続人である子がいれば法定相続のルールにより相続人にならず相続を受け取れませんので、親や兄弟姉妹などにも遺産を分けたければ遺言にその旨を書く必要があります。

遺言による財産の譲渡のことを「遺贈」といいます。
遺贈は会社などの法人に対してもできます。

特定遺贈と包括遺贈

「〇〇銀行の預金〇〇万円」や「〇〇にある土地」といったように、特定の財産を遺贈することを「特定遺贈」といいます。
「遺産の3分の1」などのように割合の指定で遺贈する方法を「包括遺贈」といいます。

遺贈は被相続人が受遺者(遺贈によって財産を譲り受ける者)の承諾なしでできる単独行為によって行うものなので、事前に受遺者となる者の承諾は必要ありません。
ただし、受遺者は遺贈を放棄することも可能です。

遺贈の放棄の方法

特定遺贈か包括遺贈かで手続きが異なります。

特定遺贈は、いつでも自由に放棄することができ、相続放棄のように家庭裁判所に申し立てる必要はありません。
しかし、それだと相続人がいつまでも相続財産を特定できない事態となってしまうので、相続人は受遺者に受け取るのか放棄するのか決めるよう催告することができます。

包括遺贈の場合は、受遺者は民法の規定により相続人と同じ立場にたつとされていますので、自分が遺贈されたと知った時から3カ月以内に家庭裁判所に申し立てなければ放棄することはできません。
ちなみに、包括遺贈の受遺者は、遺贈を受け取る場合は、相続人と遺産分割協議をしなければなりません。

他人に遺贈する場合の注意点

上記にあるように、被相続人が自由に自分の財産を処分できるのが原則です。
ですが、相続人には遺留分があります。(遺留分の詳細は「遺留分とは」にて)
被相続人は残された家族のその後の生活にも気を配らなければなりませんし、相続人の相続に対する期待を尊重する必要もあります。
遺贈をする場合は、相続人の遺留分にも注意を払う必要があります。

遺贈が公序良俗に反する場合は、遺贈は無効となります。
「公序良俗に反する場合」を説明するのは難しいのですが、法律や一般常識から考えて「そんなことしたらダメでしょ」というようなことです。
分かりやすい例を言えば、「〇〇さんを殺してくれたら〇〇万円を遺贈する」というような内容を法律や常識的に考えて認めるわけにはいきませんし、これは完全に公序良俗違反です。
判例では、愛人関係を維持する目的でなされた遺贈は無効とされています。

他人への遺贈は「特定遺贈」がオススメ

「遺産の3分の1を遺贈する」などのように包括遺贈の場合は、具体的に受遺者が何を受け取るかが確定していません。
具体的に何を受け取るかは相続人全員と遺産分割協議をする必要があります。
要するに被相続人の家族の中に他人である受遺者が入ってお金の話合いをするわけですから、遺産分割協議は受遺者にはかなりの負担です。
特に恩人に遺贈するならば、恩人にそういった負担をかけさせたくないと思うのが普通でしょう。
それに包括遺贈ならば、遺贈を知った時から3カ月以内に放棄するか決めなきゃいけないという期限が決まっています。

特定遺贈のように、遺言で遺産の中でどれを渡すのか具体的に明記してあれば相続人との話し合いは不要になりますので、受遺者の負担は最小限度にとどめられます。
相続人にとっても遺産分割協議に他人が入ってくるとやりにくいと思います。
他人への遺贈は、受遺者にとっても相続人である家族にとっても特定遺贈の方がありがたいはずです。